世にも珍しい、扁桃炎・扁桃肥大などによる扁桃摘出手術(扁桃腺切除手術)を検討している方に焦点を当てた民間の医療保険の解説を書いてみました。
保険というものの全体像から、扁桃に関する保険の流れで説明します。
目次
保険の種類
保険と共済
制度上の違いはありますが、加入者から見て同じものと考えて大丈夫です。
本稿では同じものとして扱います。
生命保険・損害保険・第三分野
保険は、大別すると生命保険と損害保険の二種類があります。 その中間に位置する「第三分野」という保険分野があります。
その分野に「がん保険」や「医療保険」があり、扁桃炎をカバーするのは医療保険です。
なお、日本生命や第一生命などの漢字名称の保険会社(いわゆる「漢字系生保」)は、死亡保険に特約などを沢山付ける形式の保険(いわゆる「アカウント型保険」)を売っており、その内の「医療特約」が医療保険と同じものです。
保険料と保険金
保険料と保険金は紛らわしいですが、以下の違いです。
保険料:保険会社に支払うお金(掛金)
保険金:保険会社から貰うお金
医療保険とは?
医療保険は、主に以下の2つの保障を主軸にした保険です。
- 入院保障:入院日数に応じて、1日につき5000円などの固定金額を貰える保障
- 手術保障:手術内容に応じて、1回につき10万円などの固定金額を貰える保障
最近は、実損填補型の保険(病院窓口に実際に支払った金額を貰える保険)もありますが、超マイナーな保険ですので加入している方は少ないです。加入条件は厳しめですが、個人的には実損填補型はいい保険だと思います。
なお、入院日数にかかわらず、最低5万円や10万円などの固定金額を支払う保険も最近出ていますが、扁桃摘出手術を受けるという観点では、メリットはありません。7-10日程度の入院が普通だからです。保障が厚くなれば当然保険料もその分上がります。
手術には至らないが、扁桃炎の悪化で短期入院する場合には、メリットあります。
そもそも扁桃炎持ちでも保険金が下りるのか?
ここは非常に重要な点です。保険料を払ってもお金が貰えないという最悪の結果になるからです。
扁桃炎関連で保険金が下りないケースは以下の3つがメインかと思います。
①告知義務違反
②保障対象外手術
③契約前発病(責任開始前発病)
上記①②は色んなサイトで解説あると思いますが、③については一般にあまり知られていないと思います。
ちなみに、扁桃摘出手術を受けたとき、私は3社の医療保険に加入していました。2社は保険金が1週間で下りたものの、上記③を理由に1社だけ保険金が下りませんでした。扁桃炎で入院給付金が下りない場合、上記③が理由になることが多いと思われます。
①告知義務違反
保険は加入時に病歴や検査歴などを申告することが必要です。既に病気の人や再発する可能性の高い人を加入させると、健康な人が割高な保険料を支払う羽目になり実質的に不平等だからです。虚偽申告して加入すると、保険金が支払われず、保険契約も解除される可能性があります。
一般的な告知内容
告知内容は保険種別毎に各社異なりますが、医療保険の場合、概ね以下の内容です。
①直近3か月以内の医師診察・治療・投薬履歴の有無
②直近2年以内の健康診断・人間ドックなどでの異常指摘
③直近5年以内の別紙に定める重大な病気の診察・治療・投薬履歴の有無
④直近5年以内の上記③以外の病気の診察・治療・投薬履歴(7日以上)の有無
上記①②③は何とか正確に告知できても、④は覚えてないこと多いですよね。ただ、④の条件には「7日以上」という条件が付いているので、「そんな重大な病気なら思い出せるだろう」と思いがちです。しかし、この7日の算定方法が曲者です。
例えば、扁桃炎用の抗生物質を5日分貰って終わりなら告知義務の対象外になります。
でも、5日で治らず、追加で2日分の抗生物質を貰うと、合計7日分の投薬となり、告知義務の対象となります。
また、扁桃炎で5日分の薬を貰ってほぼ治ったものの、喉に違和感を感じるなどして初診から7日後に再診を受けると、仮に何も問題なくて追加薬が処方されなくとも、初診から再診まで合計7日の診察を受けた扱いになり(実質2日ですが、オセロのように途中期間も保険告知上は診察扱い)、これも告知義務の対象となります。
割増保険料などの条件が付いても加入するべきか?
保険会社は「保険加入時には全て正確に告知してください」と言いますが、一発レッドカードの重い病歴があったり、告知項目が沢山(概ね3つ以上)あると、引受査定が不利になり、謝絶(保険加入拒否)になったり、割増保険料などの条件が付保される可能性が高まります。
ただでさえ医療保険は保険会社のドル箱商品であり、払った保険料総額以上の保険金が貰える確率は極めて低い不利な賭けです。そのうえで割増保険料や部位不担保などの条件が付くようなら、よほど自分は病気に弱いと確信を抱いていない限り加入しない方が良いです。
その場合、保険料を支払ったつもりになって、その金額を貯金しておいた方がよっぽどましです。勿論、あくまで確率論であって、結果論としては保険に入っていれば良かったということもあるでしょう。不利な賭けをあえてしますか?というお話です。
テラ銭とは?
宝くじは、購入総額の55%を胴元が持っていきます。胴元が持っていく金額を「テラ銭」といいます。残りの半分が当たりくじとして還元されます。米国の宝くじのテラ銭は40%程度です。中央競馬のテラ銭は20-25%程度で、ラスベガスカジノのテラ銭は数%と言われます。
保険についても、国内の方が米国よりもテラ銭が高いです。米国の方が競争が激しいことや資金運用が上手というのが理由だと思います。
日本の保険会社のテラ銭は30-50%程度と言われます。全平均ですので、医療保険のテラ銭はもっと高いと思われます。保険料を回収したかったら、他の人よりも相当沢山入院しなければなりません。
保険は相互扶助であり投資回収率を考えるべきではないという方もおり、そういう面を全否定するものではありませんが、民間医療保険は社会制度ではなく金融商品ですので、金融商品としての優位性をメインで見ていくべきものだと私は考えています。我々がそういう目で選別するようになってこそ、保険会社も期待に応えた経営をするようになるのです。
告知漏れがあったら?
仮に告知漏れがあったとしても、加入から2年以内に「保険金請求トリガー」が発生しなければ(誤解される方が多いですが保険金を請求するかは関係無く、入院や手術などの保険金請求トリガーが2年以内に発生すればアウト)、よほどひどい告知漏れでなければ、告知義務違反を問われる可能性は低いと思います。可能性が低ければ、調査される可能性も低いです。
ちなみに私は、保険加入時に扁桃炎を告知してませんでした。加入当時は、上記④の告知条件をよく理解していなかったこともありますが、そもそも風邪と同じで告知するほどのことではないと思っていていた節もあります。当時は体質的に喉が弱いくらいの感覚で、慢性扁桃炎という病気も知りませんでした。
どのくらい調査される?
扁桃摘出手術で保険金が下りた二社は、10年以上の加入歴がありましたので、全く調査されることもなく1週間で保険金が下りました。
法律上、告知義務違反は詐欺・重大事由でなければ、5年経過すればセーフのため、よほどのことがないと保険会社は5年以上前の契約調査をしないはずです。
よほどのこととは、ガン病歴を隠してガン保険に加入したり、心臓病を隠して死亡保険に加入したりするケースです。扁桃炎ならまず該当しません。
調査にはコストを伴いますので、調査費用をかけるだけの支払金額かが大きな基準になります。そのため、数万円の保険金支払は、特段怪しむ理由がなければ、実施したとしても簡易調査(保険金請求時に書かせる医療機関への照会)くらいしかしないと思います。
扁桃炎を告知しても、それだけならそれほど悪い査定にはならない保険会社が多いと思いますが、頻度などによっては部位不担保(喉の病気は保障対象外)などになってしまう可能性があります。
扁桃炎持ちの方は、保険加入の直近5年間、何とか7日分の薬を貰わないようにして、そもそも告知対象から外したいところです。
少なくとも、扁桃摘出手術を受けた病院のカルテ・レセプト、その病院を紹介した病院(前医)のカルテ・レセプトは保険会社に筒抜けになると考えておいた方が良いです。
調査機関が本気になれば、健保組合の履歴から全病院の受診履歴を洗って調査される可能性もあります。口蓋扁桃摘出手術程度でそこまでしないと思いますが…
なお、個人情報保護法は守ってくれません。保険金請求時に、個人情報開示の同意書の提出が必須だからです。
②保障対象外手術
口蓋扁桃摘出術は、手術給付金の適用外の保険が多いです。私が加入していた二社の保険も適用外でした。もう一社は適用対象でしたが、「③契約前発病」を理由に支払拒否されました。
傾向として、昔の医療保険はほとんど適用外です。
最近の医療保険は適用対象が増えています。
昔の医療保険は、保険会社が指定する88種の手術(口蓋扁桃摘出術は指定外)を保障対象としていますが、最近の医療保険には健康保険対象の1000種の手術(口蓋扁桃摘出術も含まれている)を対象とするものが出てきているからです。
なお、88種と1000種というと凄い違いのように見えますが、種類の分け方が違うので、88種は実質600種くらいで、1.5倍程度の差です。
また、保障範囲が広めた分、給付金額を下げている保険が多く、一概にどちらが得かは言いにくい面もあります。扁桃炎持ち観点からは明らかに後者ですけどね。
なお、適用外となるのはあくまで手術給付金であって、扁桃摘出手術を理由として入院給付金が下りない医療保険を私は知りません、
③契約前発病(責任開始前発病)
私はこれで支払拒絶されました(笑)
加入から一年以内の請求でしたから仕方ありません。
加入時には、慢性扁桃炎が悪化してこんなに早く手術することになるとは思ってませんでした。いつか受けたいなー♪くらいの気持ちでした。
契約前発病(責任開始前発病)の免責制度
医療保険は、保険加入期間中に発病した病気について、有効期間中の保障をするものです。従って、保険加入前に発病していた病気については、保険加入後に入院・手術をしても基本的に保険金は下りません。
扁桃炎持ちの場合、慢性扁桃炎であることが多いです。慢性扁桃炎と言われたことはなくとも、カルテやレセプトにはそのように記載されていることが多いと思います。カルテやレセプトに慢性扁桃炎と記載されていなくとも、年に複数回の扁桃炎診察履歴があれば、慢性扁桃炎であったと判断されると思います。
そのため、多くの場合、手術を見越して保険に加入しても、契約前発病を理由に支払拒絶される可能性が高いです。
私の場合、手術先を紹介してくれた耳鼻科に保険会社の調査が入り、「保険加入前に発病していた慢性扁桃炎を原因とした手術である」として、手術給付金・入院給付金共に下りませんでした。
契約前発病(責任開始前発病)の免責制度の緩和
しかし、この契約前発病を免責する保険約款は、裁判や当局により問題視され、無期限での契約前発病による支払拒否は不適切とされました。
これを受けて、各保険会社は、「保険加入(保障開始日)から2年経過後の入院・手術は契約前発病とはみなさない」といった趣旨の規定を保険約款に追加しました。会社毎に若干の違いはあると思います。
扁桃炎持ちの保険加入戦略
このように、近い内に手術をしようと決めていて、保険金を貰う目的で医療保険に加入しても、この契約前発病の免責条項によって保険金が下りません。
でも、扁桃炎や扁桃肥大などに悩まされていて、いつか将来扁桃摘出手術を受ける必要が出てくるかも、くらいの方であれば、早めに医療保険に加入しておきましょう。
前述の通り、2年無事に経過すれば、告知義務違反などの他の違反でやられない限り、保険金をまず受け取れます。もう少しで2年経過する方は、2年経過するのを待ってから手術を受けた方が支払拒否リスクが下がります。
例えば、30歳男性がオリックス生命の「新CURE」に加入すると、保険料年額は約1.8万円(2019/9/22時点)です。
もし手術となれば、手術給付金は10万円、私と同じ9日入院では4.5万円の入院給付金が貰えます。合計14.5万円貰えます。
14.5÷1.8=8のため、加入後8年以内に扁桃炎が悪化して手術することになれば黒字です。加入後16年後でも、保険料が実質半額です。扁桃炎以外の病気もカバーしてです。
勿論手術せずに済めば、そういう効果はありませんが、扁桃炎持ちの人間としては分の良い賭けだと思いませんか?
扁桃炎持ちの方で、痛さや費用や後遺症などの不安で手術に踏み切れない方、医療保険の加入検討を是非お勧めします。
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